マーカーワクチンの検討会でいただいた宮下マリ先生の見解
「基本は、マーカーワクチンはグループで使用することで判別が行え、個別診断では精度に問題が出るかもしれない。また、判定の結果手法も問題が感じるものです」
作成日:2021年3月2日
作成者:エクシュタイン・スワイン・サービス
宮下マリ
マーカーワクチンについて
1.マーカーワクチンとは?
野外感染した動物とワクチン投与された動物を区別するため、「目印」がついたワクチンのことで、DIVA(Differentiating Infected from Vaccinated)ワクチンとも呼ばれる。病原体に感染した場合の免疫応答とは異なる、容易に識別可能な免疫応答を誘発するもので、ワクチン免疫豚と野外感染豚を識別するためには、識別用の抗体検査キットを併用する必要がある。一般的にマーカーワクチンの「目印」は、遺伝子の一部を付加あるいは欠損させることで成立する。マーカーの主な用途は、ワクチンを投与しながらも、野外感染した動物を摘発することで、伝染病の清浄化に役立たせることである。
2.どんなマーカーワクチンがあるのか?
◆オーエスキー病ワクチン:糖タンパクgI欠損の弱毒生ワクチン
⇒野外感染豚:gI抗体あり。ワクチン投与豚:gI抗体なし。
⇒ワクチン投与豚:gI抗体陰性+全抗体ELISA陽性
◆口蹄疫ワクチン:不活化されたウイルスから非構造タンパクNSPを除去されたワクチン
⇒ワクチン投与豚:NSP抗体陰性、ELISA陽性
◆豚熱(CSF)ワクチン:牛のBVDV CP7株の主要タンパクE2(エンベロープ)をCSFV Alfort187株のE2遺伝子に置換した弱毒生ワクチン
3.豚熱(CSF)ウイルスについて
フラビウイルス科、ペスチウイルス属
エンベロープを有する。一本鎖RNAウイルス
羊のボーダー病ウイルス、牛のBVDウイルス(牛ウイルス性下痢ウイルス)と同じペスチウイルス属
感染するとErns、E2、NS2-3タンパクに対して抗体を産生する。E2(エンベロープ主要タンパク)は中和抗体を誘導する。
4.スバキシンCSFについて
◆EU、米国で承認されている。
◆EUガイドライン:豚群レベルでの使用が推奨されている(個体識別としてのツールでない)
◆製造販売会社:ゾエティス社
◆E2遺伝子欠損BVDウイルス(CP7株)にCSF(Alfort 187株)のE2遺伝子(CP7_E2alf)を挿入した遺伝子組み換え弱毒生ワクチン
◆用法・用量:生後6~7週齢以上の豚に1ml筋肉内注射
◆マーカー機能を有する。ワクチン投与された動物はE2抗体陽性となるが、その他のCSF抗体(例えばErns-CSFV)には陰性となる。ただし、Erns-BVDV陽性になるため、Erns-CSFVと識別するための抗体検査が必要となる。
4-1 ワクチン投与後の識別
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Erns CSFV
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E2 CSFV
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未感染/ワクチンなし
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陰性
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陰性
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ワクチン投与
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陰性
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陽性
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感染
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陽性
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陽性
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抗体検査キット:Herdchek CSFVab(E2), PrioCHECK CSFV Erns, Pigtype CSFV Erns
4-2 動物医薬品検査所の試験が異様(令和2年9月2日)
Ø 供試豚:8頭(7週齢)
Ø 試験群:マーカーワクチン投与⇒28日後にCSFV国内株に感染
Ø コントロール群:ワクチンなし⇒28日後のCSFV国内株に感染
Ø 結果:感染攻撃後、ワクチン群ではCSFV遺伝子検出されず、症状の悪化なし。
ワクチン投与後2週間で、全頭E2抗体陽性。
感染攻撃前
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感染攻撃後
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E2
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Erns (キット1)
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Erns (キット2)
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E2
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Erns (キット1)
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Erns (キット2)
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4/4陽性
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1/4陽性
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2/4陽性
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4/4陽性
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4/4陽性
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2/4陽性
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表:ワクチン投与前と後の抗体検査結果
キット1:Pigtype(Indical Bioscience社)
キット2:PrioCHECK(Thermo社)
抗体検査の感度、特異度の問題が考えられる。(感度=真陽性率、特異度=真陰性率)=BVDVとの交差反応が起きていると思われる。
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感染あり
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感染なし
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検査で陽性
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真陽性
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偽陽性
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検査で陰性
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偽陰性
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真陰性
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【参考資料】
1. Suvaxyn CSF Marker Vaccine: Zoetis
2. European Medicines Agency: www.ema.europa.eu/en/medicines/veterinary/EPAR/suvaxyn-csf-marker
3. 農研機構HP: http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/swine_fever/
4. Henke et al. Vaccine 36(2018)4181-4187 Protection against
transplacental transmission of moderately virulent classical swine fever virus
using live marker vaccine “CP7_E2alf”
5. Schroeder et al. (2012)Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 31 (3),
997-1010
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