マーカーワクチンの検討会でいただいた宮下マリ先生の見解

「基本は、マーカーワクチンはグループで使用することで判別が行え、個別診断では精度に問題が出るかもしれない。また、判定の結果手法も問題が感じるものです」

作成日:202132

作成者:エクシュタイン・スワイン・サービス

宮下マリ

 


マーカーワクチンについて

1.マーカーワクチンとは?

 野外感染した動物とワクチン投与された動物を区別するため、「目印」がついたワクチンのことで、DIVADifferentiating Infected from Vaccinated)ワクチンとも呼ばれる。病原体に感染した場合の免疫応答とは異なる、容易に識別可能な免疫応答を誘発するもので、ワクチン免疫豚と野外感染豚を識別するためには、識別用の抗体検査キットを併用する必要がある。一般的にマーカーワクチンの「目印」は、遺伝子の一部を付加あるいは欠損させることで成立する。マーカーの主な用途は、ワクチンを投与しながらも、野外感染した動物を摘発することで、伝染病の清浄化に役立たせることである。

 

2.どんなマーカーワクチンがあるのか?

オーエスキー病ワクチン:糖タンパクgI欠損の弱毒生ワクチン

⇒野外感染豚:gI抗体あり。ワクチン投与豚:gI抗体なし。

⇒ワクチン投与豚:gI抗体陰性+全抗体ELISA陽性

◆口蹄疫ワクチン:不活化されたウイルスから非構造タンパクNSPを除去されたワクチン

⇒ワクチン投与豚:NSP抗体陰性、ELISA陽性

◆豚熱(CSF)ワクチン:牛のBVDV CP7株の主要タンパクE2(エンベロープ)CSFV Alfort187株のE2遺伝子に置換した弱毒生ワクチン

 

3.豚熱(CSF)ウイルスについて

フラビウイルス科、ペスチウイルス属

エンベロープを有する。一本鎖RNAウイルス

羊のボーダー病ウイルス、牛のBVDウイルス(牛ウイルス性下痢ウイルス)と同じペスチウイルス属

感染するとErnsE2NS2-3タンパクに対して抗体を産生する。E2(エンベロープ主要タンパク)は中和抗体を誘導する。

 

4.スバキシンCSFについて

◆EU、米国で承認されている。

◆EUガイドライン:豚群レベルでの使用が推奨されている(個体識別としてのツールでない)

◆製造販売会社:ゾエティス社

◆E2遺伝子欠損BVDウイルス(CP7株)にCSFAlfort 187株)のE2遺伝子(CP7_E2alf)を挿入した遺伝子組み換え弱毒生ワクチン

◆用法・用量:生後67週齢以上の豚に1ml筋肉内注射

◆マーカー機能を有する。ワクチン投与された動物はE2抗体陽性となるが、その他のCSF抗体(例えばErns-CSFV)には陰性となる。ただし、Erns-BVDV陽性になるため、Erns-CSFVと識別するための抗体検査が必要となる。

 

 

4-1 ワクチン投与後の識別

 

Erns CSFV

E2 CSFV

未感染/ワクチンなし

陰性

陰性

ワクチン投与

陰性

陽性

感染

陽性

陽性

抗体検査キット:Herdchek CSFVabE2, PrioCHECK CSFV Erns, Pigtype CSFV Erns

 

4-2 動物医薬品検査所の試験が異様(令和292)

Ø  供試豚:8頭(7週齢)

Ø  試験群:マーカーワクチン投与⇒28日後にCSFV国内株に感染

Ø  コントロール群:ワクチンなし⇒28日後のCSFV国内株に感染

Ø  結果:感染攻撃後、ワクチン群ではCSFV遺伝子検出されず、症状の悪化なし。

ワクチン投与後2週間で、全頭E2抗体陽性。

感染攻撃前

感染攻撃後

E2

Erns     (キット1)

Erns     (キット2)

E2

Erns     (キット1)

Erns    (キット2)

4/4陽性

1/4陽性

2/4陽性

4/4陽性

4/4陽性

2/4陽性

  

 

 

 

 

表:ワクチン投与前と後の抗体検査結果

キット1:PigtypeIndical Bioscience社)

  キット2PrioCHECKThermo社)

 

抗体検査の感度、特異度の問題が考えられる。(感度=真陽性率、特異度=真陰性率)=BVDVとの交差反応が起きていると思われる。

 

感染あり

感染なし

検査で陽性

真陽性

偽陽性

検査で陰性

偽陰性

真陰性

 

【参考資料】

1. Suvaxyn CSF Marker Vaccine: Zoetis

2. European Medicines Agency: www.ema.europa.eu/en/medicines/veterinary/EPAR/suvaxyn-csf-marker

3. 農研機構HP http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/swine_fever/

4. Henke et al. Vaccine 36(2018)4181-4187 Protection against transplacental transmission of moderately virulent classical swine fever virus using live marker vaccine “CP7_E2alf”

5. Schroeder et al. (2012)Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 31 (3), 997-1010