佐渡で始まった放牧養豚
〜放牧場の作り方 〜
ピッグスペシャリスト 山下哲生
2013年10月
放牧は、土地さえあれば、簡単にできるものです。
よく放牧というと、基準はないのですかと質問を受けます。舎飼のブタに関しては、アニマルウェルフェアの影響もあり、ガイドラインはあるようですが、放牧に関しては日本では現在までのところ特にありません。
海外でも、放牧についての基準ができたという話は聞きません。
放牧は移動し、場所を変えていくことを前提にしますから、定住をもとに恒久的な施設を前提にした工場的生産は合いません。
かつて、農林水産省にもどのくらいが適正かを聞いたことがありますが、養豚はどちらかというと定住タイプの生産ですから、豚舎の空いたところに放牧場を作って繁殖豚の管理をする場合は別ですが、放牧を行う場合は休耕地などを「借りて」放牧するほうがよいでしょう。その場合の広さですが、私たちは肥育豚1頭当たり、20平米以上を最低基準としています。これ以上であれば、まず悪臭の問題はでてきません。
また、排泄場所が集中することで発生する、悪臭やハエの大発生などの問題もほとんど出てきません。
特に、糞は放牧場全体に散布したように広がります。これには、ハエがたかりますが、そこから発生したウジは、雨、直射日光、何よりも自然に集まってくる小鳥たち(佐渡では、サシバと呼ばれている小鳥が集まってきます)により、ほとんどが捕食されているようです。
▲ 虹が出た放牧場
放牧の基本は、囲うことから
放牧用フェンス
養豚の放牧用フェンスが作られています。一巻き50mで、高さは1m、網目に工夫がなされ、上下があります。下のほうは、10cmぐらいのせまい間隔になっています。上のほうは、15cmぐらいのひろいかんかくとなっています。材質は太い針金で、亜鉛メッキでしつかり防錆加工されています。
豚は、その鼻力で地面をブルドーザーのようにほじくりますから、下部のフェンスは、頑丈なものでなければいけません。
一番外側には、外部と遮断するために、このフェンスを設置するのがよいでしょう。
放牧場での区画は、この50mフェンスを区画当たり2本使う設定で、例えば15m×30mぐらいの区画がよいと思います。この区画に20頭程度を基準にいれればよいでしょう。
放牧で一番心配なのは、豚が放牧地から逃亡することです。
豚は、あまり遠くには行かないものの、特に放牧で足腰を鍛えているので、これを捕まえて戻すのは至難のわざです。
また、逃亡した先が近隣の田畑であれば問題が生じ、放牧もクレーム対象になります。
このフェンスを支える支柱は、2・5~3m間隔で設置します。
できれば1・5~2m、推奨できるのは1・8m程度の木の丸太杭、あるいは鉄のアングルを準備します。
土地が粘土質で硬い場合は、鉄のほうが打ち込みはスムーズなようです。
杭は地上に1mほど出してあとは打ち込みます。その際、小型のユンボなどの建設機械があれば、打ち込みははかどります。
また、大ハンマーを使い、打ち込むこともできます。木杭の場合は、又釘をつかいますが、アングルの場合は針金でフェンスと結んだりします。
▲ 巻いたフェンスと重機による打ち込み
▲ アングル支柱
▲ 木杭の支柱とフェンス
電牧柵の敷設
フェンスの内側に20cmぐらい離して電牧柵を敷設すれば、豚の柵外への「逃亡」の可能性は大幅に減ります。
豚の場合は、電牧線を地上から30cmと60cmの2本張れば大丈夫ですが、1本でも十分です。豚は学習能力が高いので、1日から2日で電牧柵が不快なものと強く認識し、ほとんど触れることはなくなります。
野外で電気を得るのが大変な場合は、太陽電池(ソーラーシステム)を利用して充電するのがよいでしょう。今は、ホームセンターなどでも販売されていますが、1~2区画でしたら、200~300mのもので十分でしょう。
テント
放牧でも、豚は雨風を避けてゆっくり休み、快眠したいとする欲求があります。猪もくぼみ、あるいは、ススキなどを集め巣穴と雨除けを作ります。
屋根と風を避けるテント程度のものは、ぜひとも準備する必要があります。
間口は2.4~3・6m奥行は、10mほどあれば、20頭程度の100s台の豚でも楽々寝ることができます。
構造は、簡単に建設・撤去ができるように、単管パイプクランプなどで作るのがよいでしょう。これを作る際には、テント内の床面を地面より10〜15cm高くしておくことがポイントです。
佐渡では運送用のパレットを流用し、これを敷き詰めて、併せてこの上にコンクリートパネルを打ち付けて床面としました。こうすると雨水の侵入がないほか、床面が乾燥するので、衛生度合いが高まります。テントのシートはできれば、UV加工(紫外線による劣化を防止する加工)したものがいいでしょう。
大風や大雨にも耐えられるように、しっかりロープで囲うことと、豚を集める誌に便利なように、扉を一方につけておくことも作業の効率化に寄与します。
▲ テントの外観
▲ ソーラーシステムの発電用機器
▲ 床は地面より上げる
▲ 追い込み用のトビラ柵
餌箱
餌箱は、大容量でなおかつ餌が野鳥、野ネズミ、虫などに盗食されないように、上の餌の投入口、下の喰い口の部分も,蓋をつけるほうがよいでしょう。
佐渡では、最大120s投入でき、なおかつ喰い口には、豚がこじ開けないと餌を食べれないようなフィーダーが準備されています。
材質は、ステンレスで放牧用の特注品です。
食べる量は、出荷間際の最大で1日4sのドライな餌を食べるものと思えばよいでしょう。カボチャ、野菜くずなどは、床、地面に直に投げても結構喜んで採食するようです。
▲ 蓋を跳ね上げ摂食する豚
▲ 蓋つきの餌箱
給水
放牧では水を良く飲みますから、給水は十分に飲めるようにしてやる必要があります。ただし、給水器の下は、ともすると深く掘られる傾向があります。これは、口の中の土砂、小石が、カップ式の場合はかなり入り込み、機能を著しく落とす場合があります。
給水器をセットする際には、下に、プラスチックのスノコなどを敷いておくほうがよいでしょう。
水遊びを減らせる効果もあり、管理が簡単な面もあるので、噛みこみ式のピッカーよりは、一定の水位で給水ができるサイホンカップのほうがよいでしょう。
▲ 給水器のしたには、プラスチックパレット
▲ フロート式給水器
投資の目安は1区画20頭収容で
20万円ぐらいから
放牧養豚ですが、業者に頼まず、自力でやれば材料費だけではそれほどかかりません。主なものを上げると表1のようです。
フェンスは隣接させれば、コストダウンできます。労を惜しまなければ、それほど難しくはありません。
表1 放牧場建設に必要な主な材料と材料費
フェンス 50m巻き 2巻き
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4万円×2=8万円
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電牧柵 ソーラーシステム200m
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3万円
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テントハウス 単管 + シート
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4万〜5万円
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放牧用餌箱
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4万5000円
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サイホン式給水バルブなど
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5000円
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給水タンク 配管 など
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自前
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※月刊養豚情報(http://www.keiran-niku.co.jp/youton.html
)好評連載中! ピッグスペシャリスト・山下哲生の「佐渡だより」その7より
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